【財政】財政赤字は善か悪か
景気対策と財政赤字
政府は景気対策などのために公共事業を行うことがあります。選挙が近づくと、商品券やなんとか手当といったバラマキと呼ばれるような政策が話題になることもあります。
ここで注意したいのはその財源としての借金です。
日本では失われた20年と呼ばれるバブル経済崩壊後の経済低迷に対して、国は公共事業による景気対策を行い、その財源として建設国債を発行しています。
また、ますます進行する高齢化に伴って年金や医療費が財政を圧迫し、一方で税収などの財源が不足しているために赤字国債を発行しています。
日本は本来の収入以上に支出している財政赤字の状態になっています。
財務省によると、2016年には債務残高がGDP比232%にも上っています。
財政破たんが取りざたされたギリシャは200%なので、ギリシャ以上に身の丈以上に借金をしているといえます。
https://www.mof.go.jp/tax_policy/summary/condition/007.htm
財政赤字は悪か
財政赤字は悪なのでしょうか。
ケインズ経済学では、①中央銀行の金融政策による金利引き下げとともに、②政府の財政政策による公共事業は不景気における景気対策として有効とされています。
ケインズ経済学 - Wikipedia
日本でも実際に日銀によるゼロ金利(もしくはマイナス金利)政策と国の財政政策の組み合わせによる景気対策が行われています。
しかし、福祉への負担もさらに膨れあがるなかで財政赤字を続けることは持続可能なのでしょうか。
持続可能な財政赤字とは
日本はギリシャとは違って国債のほとんどが国内で消化されているので国債残高が巨額であっても問題ではないという議論があります。
しかし、国債は国(政府)が金融機関や投資家などから借りたおカネであり、借りたカネは返さねければなりません。
借金はあくまで返せる限度内でのみ借りるということを前提としなければなりません。
「財政赤字の正しい考え方 政府の借金はなぜ問題なのか」(井堀利宏、東洋経済新報社、2000年)では、持続可能な国債発行可能額について以下のように述べられています。
返済期間全体で借金の返済に回せるおカネの合計額(現在価値)分だけしか当初借りることができない。
(井堀、2000年、P81)
つまり、持続可能な国債発行可能額には以下の2つの要素があります。
- 借金の返済に回せるおカネ
- インフレ率(現在価値に影響)
まず、借金の返済に回せるおカネは将来の財政黒字です。
これは、現在の景気対策によって景気が向上することによって将来の税収が増加することが必要になります。仮に収入が増えなければ歳出をカットするしかありません。
次にインフレ率についてですが、これはおカネの時間価値の問題です。
ーーーーーーーーーーー
現在価値とはおカネの時間価値を考慮したものであり、将来のおカネをインフレ率が割り引いて計算されます。
たとえば借金100億円、返済期日は10年後、インフレ率は2%とします。
そうすると、10年後に100億円が必要になりますが、10年度の100億円は現在の価値では82億円(=100億円×(1+0.02)^10)であり、現在価値でいえば82億円分の財源で済むことになります。
ーーーーーーーーーーー
インフレ率が高いほど現在価値が小さくなり、借金できる金額が増えます。ただし、インフレ率が高すぎると物価高騰に苦しみますので注意が必要です。
日銀がゆるやかなインフレを目指しているのはこのためです。
このように将来の税収増加と適度なインフレが見込まれ、その範囲内で借金をしている限りは、財政赤字は大きな問題にはなりません。
しかし、人口減少社会では税収増加は不確実性の高い課題であり、デフレ傾向が強くなります。
かつての高度経済成長期やバブル期では将来の経済成長を担保として財政拡大が行われましたが、縮小社会となってしまった現在では財政赤字は慎重に検討されるべきです。
景気対策としてムダな支出を行うことが政府の役割だということ考えもかつてはありましたが、
公共事業の有効性と財政赤字の「悪」についてパラダイムシフトが起きているといえるでしょう。
参考書籍
財政の役割と持続可能な財政について詳しく知りたい方は次の書籍が参考になるかと思います。
「財政赤字の正しい考え方 政府の借金はなぜ問題なのか」(井堀利宏、東洋経済新報社、2000年)
難易度★★★★☆
今回の記事の参考にしたメインの本です。
財政赤字について多くの研究をされている研究者が財政の役割と持続可能な財政について解説されています。
「財政学から見た日本経済」(土居丈朗、光文社新書、2002年)
難易度★★☆☆☆
日本政府の財政破たんの危険性について警鐘を鳴らしている研究者による新書。
メディアにも多く露出されている研究者であり、この手の本のうちで読みやすいのもポイントです。